〜宮古島へ行きますか? ささくら慎三編〜



ささくら慎三君は今年宮古島へと移っていった。

しみじみモードに入ろうと思うけど、彼の現役ミュージシャン時代からもうどれくらい経つのだろう。
未開人のように両手に余るので、「たくさん、たくさん」と手を広げるしかない。
本来T.F.はどうしたことか、若い頃よりミュージシャン達に、性別を意識されたことはなかった(と思う)ファンの人たちから見れば「カッコ良い人達」にいつも囲まれている私は、さぞや楽しかろうと思われていたような気もする。しかし、実態は、生身の人間と思われていない扱いを受けていた(笑)
私も、異性と意識するのは「トイレ」の入り口が違う方へ入る時だけのような……年が、余り離れてなくても、親子感覚というのだろうか? だから、ファンサイドから見ている程、刺激的なこともなく、昨今、自分の人生の女の部分って何処へ置いてきたのだろう? 駅の忘れ物センターにでも届いていたりして……と苦笑していると、思い出した。一人、とんでもなく困った奴が居た。
ささくら慎三……だ。

彼がバハマに出ていた頃は、クリクリカーリーヘアでフォークっぽい弾き語り風な楽曲をやっていた。が、バックは、スーパーフライングバンドだ。
Dr.は菅沼君……だるま食堂時代は「ケジメ」と呼んでいたが、この頃は「コウゾー」と呼んでいた。今や、師匠とか先生とか呼ばれているらしいが、私にとっては相変わらず「コーゾー」だ。
B.はジャンピング明石、ジャンプしながらベースを弾くので付いたあだ名だが、やはり、今は有名人らしい。
おまけにG.は、スーパーギタリストの、顔でギターを弾くと言われた戸田君だ。
そんなバックでしみじみ歌っていられる筈がない。「月明かり西脇の〜〜ドカドコツーバス、炸裂する……G.B.」こういうバンドは、どんなジャンルと呼べば良いのか、解らないが、慎三君は、ひるまず負けていなかった。人間性の成せる技「えへ、えへ」と笑いながら、ガッチリ客を掴んでいた。
しかし、誰にも好かれる良い人オーラを出しつつ、実は酒が入ると(時にはシラフで)とんでもない「セクハラ小僧」だったのだ。バイトまでの時間潰しに、バハマにしょっちゅう来ていたが、「オハヨウッス」の変わりに「やらしてッス」は序の口で、私の隣に座ると、肩に手を回そうとする、私も「ケモノ」の扱いは心得ているので、さりげなく火のついた草木(タバコ)を近づける。油断していると、千手観音のように手があちこちから出てくるので、たばこを両手に持ったりする。チェーンスモーカーになった一端はこの頃のケモノ追いのせいかもしれない。もちろん、慎三君の口も大人しくはない。こちらのひざの力が抜けるような大爆笑のくどき文句を連発する。「おネェ、ちょっとだけ、さきっちょだけ」とか(何がさきっちょなのか、追究出来ない)全然、いやらしくないのは、彼も、このジョークの攻防戦を楽しんでいたのだろう。手は水ぶくれの痕をいくつも作り、時には唇まで……「おねェ、これはひどいやろ」とヘラヘラ笑いながら……。よくある、肩を叩いて、振り向いた隙にキスしようと解りきった手を使うので、私は、火のついた煙草をくわえたまま、振り向いてやった。いやな匂いがした。でも、たまには火の守りが封じられる時もある。片手を抑え込んだ、慎三君は、「ギャ!!」と叫んで手を離す。
彼の頭には深々と刺さった、つまようじが……。「血がついてる!」と言いながらソッとつまようじを抜く慎三君に、「ポテトフライが、そんなところに?」ととぼけるT.F.……。

こんな話を描くと、また、私はひどい奴、と思われてしまうのだが、滅多に私の周りには居ないキャラクターなので、印象深い。彼も、自分で店を開いた時に行ってみたら、すっかり、セクハラ小僧はなりを潜め、ルックスの良さと、可愛い顔を売り物に、面倒見の良い店主に変貌していたから驚きだ。あの攻防戦は夢だったのかと錯覚してしまう程、真面目人間をやっていた。
結婚して、奥さんがよほど、出来た人だったのだろう。
すっかりそんな事を忘れきっていたT.F.だったが、今年三月に急遽、宮古島へ移転の為、「さよならライヴ」をやることになって、リハの時に、店に来てみると、「おっつぁん」になった慎三君の第一声は「おねェ! ××××」だった。
腰から力が抜けるようなギャグをかまし、さすがに、ケモノ追いは必要なかったが、「今夜、十二時の船で大阪を去るねん」の、ライヴとドラマ作りは、やはり、ロマンチストだったのか……いや、男って両面を持っているものだよね。
「絶対、宮古島に来てね」と招待された時、
T.F.「慎三君の家?」
S.「うん。家、広いから、120坪あるねん」
T.F.「蚊取り線香持ち込みあり?」
S.「うん? 何に使うの?」
T.F.「いや、蚊がぶんぶん五月蝿いと、夜通し、火のついたものが周りにないと……」
S.「アハハハ、禁止!」
T.F.「行かない。行っても、民宿に泊まる」
S.「隣は民宿やけど、仲よくて家族みたいなもん」
T.F.「あははは」
S.「ワハハハ」
………
こうして、慎三君は去っていった。

とは言え、あくまで、これもやはり私を女として扱ってなかったという事だ。
デリケートな感情があれば、お互い、出来る事ではない。頼むから、つるさんを筆頭に、松っちゃん、サトシ、田井中、その他……私のガーディアンを自負している諸兄、誤解のないように……。
困ったりしてなかったし、楽しんでいましたから。肉のコゲる臭い……悪魔か、私は?(笑)



〜 幕 〜