〜土佐の高知で屍忌蛇は採れた〜



 屍忌蛇はとても憎めない奴だ。
 GARGOYLEに志願して、いつの間にか入っていたが、最初は目立たなかったのでライヴ中「ん〜、一人多い〜?」のような認識しかなかった。
 気が付いた時に驚いたのは、ギタリストの癖に自分のギターを一本も持っていなかったことだ。ライヴの度に友達から借りているという。う〜ん、無邪気な奴だ。
 仕方がないので、丁度プレゼンスがデビューして大阪公演のあったときに、つれていって楽屋でメンバーに紹介した後、白田のメインギターをふいっと掴んだ藤田は、
T.F. 「白田、予備のギターあるやろ? これ、この子にやってよ」
白田「そらもう、いいっすよ」
屍忌蛇「ありがとうございます」
 何て、皆、無頓着なんだ。ひどい話なんだよねえ。でも、取りあえず屍忌蛇はギターをゲット。ビデオ、「こけおどし」で使用しているギターだ。
 神田商会さんごめんなさいと思いつつ、屍忌蛇も、グレコのギターが気に入ったので、早々にモニター契約をさせてもらって、あれこれ注文を付けつつ自分仕様のものを作ってもらった。天真らんまんな奴だ。

 屍忌蛇の出身は高知なので、酒が好きだし、女も好きだ。
 好きなものでも失敗するときはする。KATSUJIが飲んでも良い年頃になるちょっと前、酒の味を覚えさせようと、KATSUJIの友達で、ライヴの手伝いをしてくれていた子達を含め、自室に呼んで、さんざん飲ました。べろべろに酔わした。
 他のメンバーや私にばれると怒られるので、密かにパーティーは開かれた。
 ワイワイ盛り上がったらしい。しかし、密か事は必ずばれるもの。ばれた理由が面白い。皆、酒を飲み付けないものばかりだったため、一時の盛り上がりはすぐさま地獄への一歩となる。誰かが最初にいきおいよく吐いた。
 それを見た他の子達が、介抱しようと、傍に寄ったとき、あっという間に伝染した。
 「ブァー!」「ブォーッ」離れて見ていた子も、トイレへ走っていったが、もうそこには先客が……。やむなく、ドア前で……爆発。屍忌蛇がタオルと洗面器を持った時、すでに部屋中、汚物にまみれていた。せまい部屋にぎっしり入った人数だ。入口までヘドロ化した屍忌蛇の部屋は、数日、においで入室できなかったそうだ。数ヶ月は、屍忌蛇のマンションは「ゲロハウス」と呼ばれ、さすがに誰も近寄ろうとしなかった。思わず怒るより同情させてしまう。得な奴だ。

 以前にも書いたことがあるが、ローディー確保のため、「ディズニーランド」という餌をつけたことがあった。あの頃はまだ入場制限があって、下品な服装や金髪お断りみたいな決まりがあった。とは言え、入ってしまえばこっちのものだ。なにせGARGOYLEは金髪どころか、紫や赤の髪だ。入場ゲートを突破するために、これといって案はない。ローディー達も金髪だし……仕方がなく、タオル、帽子・日本手ぬぐいで頭を覆ったが、何のことはない。そっちの方がずっと無気味だった。
「日本手ぬぐいを頭からかぶって、はしを口にくわえた屍忌蛇……」涙なしには語れない。
 とはいえ、入ったからには楽しまねば、みんな自由行動で好みの乗り物に向かうが、暑い日だったので、待ち時間に「ヤンキー座り」して、赤い髪をこれみよがしに振り立てる屍忌蛇。無造作な奴だ。(別に自由行動にしたのは、私は何度か行っているので、決して恥ずかしかったからではありません……と思う。他人のフリをしたかったわけでもない……と思う)
 でも、最後にはKIBA君とTOSHI君が「せっかくみんなで来てるのだから一緒に乗りましょう」ということなので、それもそうだと皆に付いていく。……「大の苦手のジェットコースターだ」
 大好き組ときっぱり嫌い組がいたが、まあ、「チームGARGOYLE」ということで私も、挑戦した。
 名前は忘れたが、屋内の、暗闇を走り抜ける奴だ。大好きKIBAやTOSHIは前の方へ早速乗り込むが、高所恐怖症の私はなるだけ後ろへ、後ろへ……ふと横を見ると屍忌蛇だ。
T.F.「屍忌蛇、これ得意?」
SHI「いや、全然、苦手っす」
T.F.「私もやねん。まさか、皆で乗るのが、これかぁ……仕方ないよね〜」
SHI「苦手同士、乗りましょか?」
 というわけで、二人乗りに屍忌蛇の隣に座る。
 大嫌い人間を乗せて動き出した。
T.F.「屍忌蛇、恐かったら叫んでもええよ。何か言ってたら気が紛れるらしいし」
「×××」「○○○○」「××××」
T.F.「え?」
SHI「×××ばか」「○○○バカ」「△△△△あほー」
T.F.「え?」
SHI「K I B A 〜!」「T O S H I 〜!」
T.F.「あはは(笑)」
SHI「KIBA君のバカー!」「TOSHI君のあほー!」
T.F.「ぎゃはは〜(笑)」
SHI「KIBA君の○○ TOSHI君の△△△!! (意味不明の高知弁)」
T.F.「だっはっは!(大爆笑)」
 笑い過ぎて、腹が痛くなる頃、乗り物は止まった。
 でも、屍忌蛇はずっと目をつぶっていたらしく止まっているのに○○○○!!△△△△!!と叫んでいる。私に肩を叩かれて、目を開けた屍忌蛇は、冷たい目に囲まれる。冷静なTOSHIが「ふふっ」と笑う。私といえば、おかげで、ずっと笑い転げて乗れたので、何か自信がついてしまった。

 クリスマスのT.F.企画のイベント「アニメランド」で、鉄腕アトムになった時も、真冬に、赤い長靴、海パン、上半身裸で、マジックで胸の開き戸を書き、髪を三角に立てて、マントを首から下げた姿を思い出す。
 あの時は、「そこまでするか?」と絶句してしまったが、昨今、アニメタルで 活動していたのだから妙な縁だ。女も好き。酒も好き。遊ぶのも好き。やる時はやる。なぜか、高知弁とあいまって、坂本竜馬もこんな奴だったのかなあって……思ったりする私だけど、2〜3年前、一緒に飲んだときも、ちっともかわってなかった。
 屍忌蛇、大阪来たら、寄れよ〜! 酒癖の悪さを競おうぜ〜!


〜 幕 〜