「ハッタリ」は世界をめぐる?!

PRESENCE




啓蟄も過ぎ、寒い日も有るが、毎日少しずつ、風景に変化が見られる頃だ。なんと、T.F.の家の鉢植え桜は散り始めている。少し、おかしい気もするが、少々おかしな家なので、霧雨が落ちた花びらに露をおいた風情を愛でる。あちこちできな臭い煙が立ち始めている世の中なのに、こんなにも美しいものがあると認識させようとしているのだろうか。
人知れず咲き人知れず散ってゆく、T.F>の理想の像だが、いんや理想と現実は違うもの。確定申告の時期なので、税理士さんに言われて古い書類をひっくり返していると、変なものが出てきた。
ざっと読んで、大爆笑。
PRESENCEの海外向けのプロモーション用手紙の控えです。
ちょうど、あの頃、ラウドネスが、海外で評価を得て、EARTH SHAKER、44 MAGNUMがデビューした頃で、世界的にHR、HMが流行っていたころだ。
PRESENCEも、インディ動員No.1を誇っていたし、音楽誌にも、たびたび取り上げられていたので、プロフィールやデモテープ、資料は、常に用意してあった。16歳のひばり君が入ったばかりなので、平均年齢17才だっけ。
ある時、ロンドンの音楽誌から、資料一式、送って欲しいと依頼があったので、英語で送ったら、かなり気に入って貰えて、一冊、音楽誌が送られてきた。モノクロだが、1ページまるまるぎっしり、PRESENCEを取り上げてくれている。


大約すると、日の丸の日本にいるインディーの彼らはうんにゅん、かんにゅん、である。
「ちょっと、褒めすぎ〜〜。」と思って、それきり、忘れていたらさあ大変!
あっちこっちの国から、プロフィールとデモ、写真を送れと毎日のように、送られてくる。デンマーク、イタリア、ドイツ、USA……等々、各国の音楽誌からのものである。皆、英語で来るので、やっぱり英語で言いたい事を言わにゃあな、と思い、知人に手伝ってもらって、紹介文を、タイプしてもらって、それをコピーして、サインだけすればいいようにしておいた。
内容は、なんと「ごう慢な」の一言につきる。
確かにGの白田は美しかった。間違いなく、SHIGERUは声もよくカッコ良かった。恩ちゃん程、アクションの出来るベースは居なかったし、最も若いひばりは注目されていた。間違ってはいない。
けど……世界の一流人気アーティストと比べて、more than...だものね。そうなんだ。世界相手に一歩も引かないとこなんか、人知れず咲く花なんて、言っちゃ張り倒されそうな気もする。
けれど、イタリアのインディー専門ラジオ局で、今週のリクエストNo.1になりました。とか、ハワイから、エージェント契約を結んでくれたら全米にプロモーションする。マネージメント料は〜%と英語の契約書を送ってこられたり、音源をUSAで出す気はないかとか、毎日毎日エアメールが届いたものだ。さりとてT.F.その度に、辞書片手に、頭にぶつける日々が続いた。
ドイツから取材に来たいという電話があった時は、流石に「ハッタリ」過ぎたかと、ちと不安になった。
しかも、電話ってのは相手の姿が見えないので、英語をしゃべるのはとても苦労するというのも初めて、知った。何を言っているのか理解できない時は、「What you say? This Telephone have very noise.」で、何度もくり返させた。「どこがノイジィやねん。いや、私の頭です。」と自分でツッコミを入れながら……彼は、ちゃんと、バハマに取材に来て、会えば、愉快な、ホモにいちゃんだった。英語はお互い自国語ではないので、助かった。「グーテンモルゲン、ビッテ」と席を指さすと、「ダッハ、ディッハ、ドッハ!」と、ドイツ語をまくし立てられたのは困惑したが、私が、そのドイツ語以外ダンケとハイルヒットラーぐらいしか知らないと解ると、お互い、上半身を使っての手話(?)を交えた、ブロークンイングリッシュだ。
それでもけっこう楽しく話せて、バハマに来ていたファンの格好を見て、「あんなにドレスアップして、何をするつもりだ?」と聞かれた。ちょうど夏だったので、「ユカタ」を着ている子や、可愛い服を着てる子が多い。別に不思議と思わなかったので、「日本では、ギグに来る時は、みんな女の子は、おしゃれして来るよ〜」と答えると「信じられない!ドイツではギグに行く時は一番きたない汚れたものを着る」と言う。
Why?
「ギグでは汗は飛び散るし、ビールは浴びるし、ドロドロになるから、最初から、ダーティな服を着る」
「でないと、色んなものが飛んでくる。あんな奇麗な服を着てこれるのは、日本は、よほど、お金持ちなのか?」
「いや、そうじゃないって!自分もめいいっぱい、お洒落にしたいじゃん」
押し問答の末、ライヴを見て、納得していた。
「日本のオーディエンスは飛んだり、暴れたり、ステージに缶ビールを投げつけたりしないんだ!」
「いやしませんよ〜、ある種のパンクバンドはやるけど、メタルではやらない」
日本語でこう書くと、凄く英語が出来るように聞こえるが、そんなことはまったくない。よく言って、ピジン語だ。
「私、考える、日本 女の子 とても好き、ドレスアップ」が精いっぱい。
けれど相手だって、半端英語だから、「throw Beer and...and...another one(ビールを投げる、それから、それから、別のもの)」って言うのだよ。
「another one」って何だ?と思ったので、ドイツだもん、材料が解らん多種のソーセージでも投げるのか?と思って
「アナザーワン イズ クワイエット ソウセージ?」と聞いてみた。
じーっと私を見据えながら、彼の顔が、白→ピンク→真っ赤に変色した。
しまった!英語で、女性が、あそこを上品に喩えると「アナザープレイス」とかって言ったっけ。ひょっとしたら、オチ○ン○ンと訳されてしまったか?
私の顔も黄色→黄土色→朱色に変化した。
ばつが悪いので、「バッドジョーク!ソーリィ!」と謝ったが、その時、まゆ毛をつり上げてよけい赤くなった顔を見て、きっと、こやつは、ホモにぃちゃんだと確信したんだ。
その後、ドイツ語で書かれた記事が送られてきたが、そんなもん読めるわけもない。バハマの写真とか、ライヴの風景とかが映っている。きっと、変な日本の風習と(たこ焼きも食わせたのだ)、変な言葉をしゃべるクワイエットな大阪の音楽シーンとでも書かれていたのかもしれない。
イタリア語の雑誌も送られてきて、PRESENCEのメンバーに「何て書いてあるんですか?」と聞かれたが、答えようもない。
写真はPRESENCEだったので、「プレゼンスのことだよ〜〜、べた褒めしてんだよ〜〜」
嘘だって。んなもん、イタリア語なんて、料理名か、「ミ・アモーレ」位しか解らんって。
……まさか、ハッタリがそのまま載ってたりして……(^_^;)
というわけで、懐かしい、笑える手紙が出てきたので、付記します。

一緒に笑って下さい。
でも心は、散る花の………ですよ。




〜 幕 〜