「何処ででもウッドストック……ZOOM〜円広志編」


ZOOM


さ〜〜て、今回は私が、色々なバンドのプロデュースやマネージャーをやってきた原点に戻ってみたいと思う。
初めて、手伝い始めたのは、円広志の在席していたZOOMだ、
ZOOMのマネージャーが、バハマで、焼き飯を作っていた(バイトです)関係で、よく円君も店にライヴ以外でも来ていたし、あの頃、ZOOMはバッドカンパニー風の力強いハードロックをしていて、髪は、腰を越えるほどの長髪。今では想像もつかないでしょう。実力派バンドでした。
ある時、YAMAHA主催の8.8ロックディという、夏の野外コンサートで、ゲスト3バンドの一つに選ばれたという。ギャラも、割と良かった。
只、ゲストバンドの演奏をして、それで終わりでは、ちょっと寂しい。
しかも、ZOOMの後に出演するのはブラインドエクスプレスという、超・馬鹿テクバンドだ。人気もあったし、「外タレ」のスレイドというバンドのオープニングアクトでも、客を喰ってしまって、スレイドサイドからツアーの途中で下ろされたという逸話も有る。
そんなのの前で演奏するのは、よほど能天気でいるか、玉砕覚悟でぶつかっていくしかない。
「どうする?」「どうしよう……?」では、前に進めない。
ZOOMも、演奏力とまとまりは有るし、円君の声もパワーがあって、声色も良い。「おのれを知り、敵を知れ」というわけで、「ブラインドエクスプレス」の資料とデモテープを手に入れて聞いてみた。
「何の、恐れることなかれ」とアドバイスするわけにはいかなかった。
T.F.「あかん、あかんわ。噛みついても、歯ァボロボロやで」
M「いや、それでも、いややん?」
T.F.「まあ、そらそうやけど………。う〜〜ん、ま、ZOOMにもZOOMの良さあるしねぇ」
M「どこ? どこよ?」
T.F.「……色の黒いとこ……土方やっても不思議はない体力のありそうなとこ……」
M「……それ、ええとこ?……」

T.F.「う、うぅ……時と場合によっては、……?! 待てよ、野音やん。しかも出番は、午後遅く……あった!隙間が……ウッドストックのまんま、男のハードロック、太陽の下でやん!」
M「?!??」
T.F.の頭の中はもう、ベトナム戦争時代の「Love Peace」や「フラワーチルドレン」の雰囲気を思い出していた。
だいたい、ロックコンサートに来るような人はウッドストックのLIVE映像だって、何度か見ているはずだし、どだい、野外でやるのなら、あんなコンサートをやってみたいって誰でも思う筈じゃん。店のスタッフや常連客の多くも、お祭り騒ぎは大好きだ。「ウッドストックの雰囲気をZOOMの出番で作ろう」と持ちかけたら二つ返事で、みんな乗ってくれた。ピースマークに反戦のTシャツ着用のこと、女の子達にもなるだけ自由を謳歌する格好で来てもらうように頼んだ。
店のスタッフに頼んで、手分けして、ほんもののヒッピー族にアクセサリーや、小物を借りてきてもらい、取りあえず、蜂のひとさしを狙うべく、バンドの方には「我慢して、用意する服着てね」と頼んだ。
当日がやってきた。晴天の暑い日だ。スタッフのユカちゃんにバンドの方の着付けを頼んでおいて、T.F.は客席の方にまわった。広い特設ステージに、すり鉢状に客席が並んでる。
もちろん、座席指定などない。オープンエリアだ。常連客とスタッフに会場全域に対して、鶴翼の陣をひかせた。(何それって?武田信玄の軍略にあったと思うけど、鶴が羽を広げたかっこうで、広く包み込むって戦法が有るじゃないですか)
──全体を乱すには、外側から2〜3列内側にノリの良さそうな一般客の側に5〜6人の乱波部隊を派遣するのですよ。ななめに内側に向けて、間違っても前列などに煽り部隊はおかない。野外で盛り上げる時には、外側から後ろから、前を押し包むがベストと思ったので、ZOOMの客らしき人が入ってくると、「あっ、あっちにケイ君居るから、あの辺へ行ってね」とか「あらい君や鶴原雅人はあそこに居るよ〜」とか、まるでテロリストが何処に爆薬を仕掛けたら、そのビルが崩れるかみたいな人数配置をした。1000人を巻き込めるポイントって、必ずあるんですよ。もちろん、指定席とかだったら、無理ですが……。
配置が終わると、控え室に行って、ZOOMの出来上がりを見た。うわ!まるで、「あっとおどろくタメゴロー」だ。(こんな古いギャグ誰も知りませんよネ)円君は、ヒッピー用の丸いサングラスまでして、スカーフ、アクセサリー指輪でぐるぐる巻き状態だ。こらえ切れずに笑ってしまうが、日焼けした肌には似合っている。
T.F.「いいやん」
M「これマジ?」
T.F.「うん、マジ!」
M「……ひとつ問題が……」
T.F.「NO PROBLEM」
M「いや、こんなに指輪や腕輪つけてたら、マイク握られへん」
T.F.「親指開いてるだけじゃ無理か? 解った、イントロ始まって、後出で出た時だけつけてたら、後は、どんどん、歌いやすいように外していけばいいやん。とりあえず、ピースサインだけはステージ立ったときやってよね。客、それを待ってるから」
M「…………………。」
 セッティングが終わって、ステージ横で客席を見てみると、本当に原色で派手な固まりが、ななめに、ずれつつ、ちゃんとポイントに集まって、ピクニックの雰囲気を作ってくれている。
イントロが始まった。ピース軍団は総立ちになる。つられて、周りの客も注目する。円広志がステージに、堂々と、ラブピースをする。
ピース軍団も、「ウォ〜〜!」と叫びながら両手をあげる。口笛を吹く。まわりの客もつられて立ち上がる。段々になった、後ろから、押されるように声がこだまする。円広志が歌いだす。ピース軍団は踊りだしたり、腕を振り上げる。となりのグループ、前のグループに伝染する。オールスタンディング。やったぜ、蜂のふたさし!
おかげさまでZOOMのステージは盛り上がったまま終わったのだが、その後が大変だった。
円君は、ストリッパーよろしく、アクセサリーもスカーフもベストも全て、ステージ上に脱ぎ捨てていたのだ。借り物なんだってば……。
スタッフ全員でステージ上をはいずり回る。「あっ、こんなとこに指輪が……」汗をかきつつ、全部回収した。普通、ステージ転換の時に、お拾い部隊が登場するなんて、考えられませんよね。暑い熱い時間が終わった。
夕暮れどき、「ブラインドエクスプレス」が始まった。やっぱりカッコ良いや。
でも、楽曲の関係で、ほとんどが座って聞いている。少しは、うちらも目立ったから良いじゃん。闘い終わり日が暮れて、T.F.熱射病になりかけていたので、スタッフ用のトイレのそばにホースと、水道の蛇口があった。当然今日のウッドストックごっこの言い出しっぺの私は、ビキニの水着の上に、HパンツとGジャンだ。
Gジャンを脱ぎ捨てて、ホースで頭から水をかぶる。「う、う〜う、快感!」まどろっこしいのでHパンツも脱ぎ捨てる。たらいが無いのが残念だが、即席のシャワールームだ。「極楽!極楽♪」
「カタッ!」と音がしたので振り向いた。
男の子二人程、固まっている。
「な、何をしてるんですか?」
「あっ?今日は暑かったですね〜、汗かくの嫌いやから、水浴び。」
「え、大丈夫なんですか?」
「うん。どうせ水着やもん。気持いいから、やる?」
「え、いや、いい……」
と振り返り振り返り去っていったのは、ブラインドのVoの「デン坊」だった。目つき悪いけど、歌上手かったよね〜と思い、後ろ姿に「私、バハマに居るよ〜! 遊びにおいで〜!」と声をかけた。
振り返って、「ニコッ」と笑った「デン坊」は、何故か、一ヶ月後、バハマのカウンターで、ドリンクを淹れてくれていた……。 20歳代の私って恐いもの知らずだったんだなあ……いや、傍若無人というか……誰の声だろう?「今も変わらんやん!」という声は……。



〜 幕 〜